リモートワークでの電話対応をスムーズに デジタル化ツールの選び方と基本
はじめに
パンデミック以降、多くの企業でリモートワークが導入されました。これにより、場所にとらわれない柔軟な働き方が可能になった一方で、これまでの働き方では想定されていなかった新たな課題も生じています。その一つが「電話対応」です。
事務所にかかってくる代表電話や、部署への問い合わせ電話に、リモートワーク中の社員がどのように対応するかは、多くの方が悩まれている点ではないでしょうか。従来の電話システムでは、事務所にいる社員が電話を取り、必要に応じて担当者へつなぐという流れが一般的でした。しかし、全員、あるいは多くの社員がリモートワークを行っている状況では、この方法が機能しなくなります。
本記事では、リモートワーク環境で電話対応をスムーズに行うためのデジタルツール活用方法について、デジタルツールに不慣れな方にも分かりやすく解説します。
リモートワークにおける電話対応の課題
リモートワーク下での電話対応には、主に以下のような課題があります。
- 電話番のために出社が必要になる: 受電体制を維持するため、特定の社員がローテーションで出社しなければならない場合があります。
- 担当者への取次ぎが難しい: 事務所にかかってきた電話を担当者がリモートワーク中の場合、スムーズな取次ぎが困難です。個人の携帯電話へ転送すると、担当者のプライベートな電話と区別がつきにくくなることもあります。
- 誰が電話に出るか分からない: 複数の社員がリモートワークしている状況で、会社にかかってきた電話に誰が応答するのかが不明確になりがちです。
- 顧客からの信頼低下: 電話がつながらない、たらい回しにされるといった状況は、顧客満足度や信頼度の低下につながる可能性があります。
- 情報共有の遅れ: 電話で受けた要件や伝言を、リモートワーク中の関係者へ迅速かつ正確に共有することが難しくなります。
これらの課題を解決し、リモートワークでも事務所にいるのと変わらない、あるいはそれ以上に効率的な電話対応を実現するためには、デジタルツールの活用が不可欠です。
電話対応をデジタル化する主な方法(ツールの種類)
リモートワークにおける電話対応をデジタル化するためのツールやサービスはいくつか種類があります。代表的なものをご紹介します。
1. クラウドPBX(クラウドピービーエックス)
- 仕組みの概要: PBX(構内交換機)とは、オフィスに設置して、外線と内線をつないだり、内線同士をつないだりする電話交換機のことです。クラウドPBXは、このPBXの機能をクラウド上(インターネット上)で提供するサービスです。インターネットにつながるスマートフォンやPCを内線端末として利用できるようになります。
- リモートワークでの活用: 社員は自身のスマートフォンやPCに専用アプリをインストールすることで、会社の電話番号での発着信が可能になります。事務所にかかってきた電話を、リモートワーク中の社員が直接スマートフォンで受けたり、内線のように別の社員に転送したりできます。
- メリット: 場所を選ばずに会社の番号で電話対応ができる、設備投資が抑えられる、導入・設定変更が比較的容易など。
- デメリット: インターネット環境に依存するため、回線状況が悪いと通話品質が不安定になる可能性がある、サービス利用料がかかるなど。
2. ボイスワープ(電話転送サービス)
- 仕組みの概要: 事務所にかかってきた電話を、あらかじめ指定した別の電話番号(個人の携帯電話など)に自動的に転送するNTTなどの電話会社が提供するサービスです。
- リモートワークでの活用: 事務所の固定電話にかかってきた電話を、リモートワーク中の社員の携帯電話に転送することで対応します。複数人で対応する場合は、順番に転送する、特定の曜日や時間帯だけ転送するといった設定も可能です。
- メリット: 比較的安価で導入しやすい、既存の電話回線を活用できるなど。
- デメリット: 転送された電話が個人の携帯電話にかかるため公私の区別がつきにくい、複数人での同時対応や内線のような細かい転送・保留操作が難しい、電話に出られなかった場合の折り返し対応が煩雑になる可能性があるなど。
3. ビジネスチャットツールとの連携
- 仕組みの概要: SlackやMicrosoft Teamsなどのビジネスチャットツールと、クラウドPBXや電話転送サービスを連携させる方法です。
- リモートワークでの活用: 事務所にかかってきた電話があった際に、電話に出る担当者をビジネスチャット上で募集したり、電話内容の要約や伝言をチャットで素早く共有したりします。一部のクラウドPBXサービスは、着信通知をチャットツールに表示する機能なども提供しています。
- メリット: チーム内での連携がスムーズになる、情報共有が迅速に行える、誰が電話に出るかの調整がしやすくなるなど。
- デメリット: 電話対応そのものをデジタル化するものではなく、あくまで連携による効率化である点。
デジタル化導入の検討ステップ
電話対応のデジタル化を進める際の一般的なステップをご紹介します。
- 現在の課題と必要な機能を洗い出す: まず、現状の電話対応でどのような点に困っているのか、リモートワーク環境でどのような機能(例: 会社の番号で発信したい、複数人で同時対応したい、担当者へスムーズに転送したい、着信履歴を共有したいなど)が必要かを明確にします。
- 利用方法を検討する: 社員は主にスマートフォンで対応するのか、PCのソフトフォン(パソコンで電話ができる機能)も使うのか、特定の部署だけが利用するのかなど、具体的な利用方法を想定します。
- サービス・ツールを比較検討する: 洗い出した課題や必要な機能、想定される利用方法をもとに、クラウドPBX、電話転送サービス、あるいはそれらを組み合わせたサービスの中から、自社に合ったものを比較検討します。料金体系やサポート体制も重要な比較ポイントです。
- トライアル(試用)を行う: 可能であれば、複数のサービスで無料トライアル期間などを利用し、実際の使い勝手や通話品質を確認することをおすすめします。
- 導入・設定を行う: 利用するサービスを決定したら、契約手続きを行い、アカウント設定や電話番号の設定、アプリのインストールなどを行います。
- 社内周知・教育を行う: 新しい電話対応システムの使い方について、社員全体に丁寧に周知し、必要であれば操作方法の研修などを実施します。マニュアルを作成することも有効です。
導入時の注意点
- セキュリティ: スマートフォンやPCを会社の電話端末として使用する場合、情報漏洩リスクなどが考えられます。端末のセキュリティ対策(パスワード設定、OSのアップデートなど)や、紛失・盗難時の対応ルールを定めておくことが重要です。
- コスト: サービスの月額利用料だけでなく、通話料や、必要であればインターネット回線の増強費用なども考慮して、全体的なコストを把握することが大切です。
- 社員の理解と協力: 新しいツールやシステムへの移行には、社員の理解と協力が不可欠です。導入の目的やメリットをしっかりと伝え、操作方法などで困った際に相談できる体制を整えましょう。
- 緊急連絡への対応: 災害時など、インターネット回線が利用できない状況でも最低限の連絡手段を確保できるよう、代替策も検討しておくことが望ましいです。
まとめ
リモートワークにおける電話対応のデジタル化は、単に場所の問題を解決するだけでなく、業務効率化や顧客対応品質の向上にもつながる重要な取り組みです。クラウドPBXや電話転送サービスなど、様々な選択肢がありますが、自社の状況や必要な機能に合わせて最適なツールを選び、段階的に導入を進めることが成功の鍵となります。
新しいツールやシステムに慣れるまで時間はかかるかもしれませんが、適切に導入・運用することで、リモートワーク環境下でもスムーズなコミュニケーションを実現し、「働く」をアップデートすることができるはずです。
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