リモートワークでアカウントを守る!二段階認証(多要素認証)のやさしい始め方
はじめに:リモートワーク時代のセキュリティリスク
パンデミック以降、多くの企業でリモートワークが導入され、働く場所や時間は多様化しました。これに伴い、仕事で利用するさまざまなデジタルツールのアカウント管理がより一層重要になっています。社内ネットワークだけでなく、自宅など様々な環境からインターネットを通じてサービスにアクセスするため、以前にも増してセキュリティへの配慮が求められています。
特に、パスワードの管理は基本中の基本ですが、残念ながらパスワードが第三者に漏洩したり、推測されたりするリスクはゼロではありません。一度アカウントが不正アクセスされると、重要な情報が盗まれたり、なりすましによる被害が発生したりする可能性があります。
このようなリスクから自身や会社の情報を守るために、パスワードだけではなく、もう一段階、あるいはそれ以上の確認を行うセキュリティ対策が有効です。それが「二段階認証」あるいは「多要素認証」と呼ばれる仕組みです。
二段階認証(多要素認証)とは
二段階認証や多要素認証とは、ログインする際に「パスワード」を入力するだけでなく、別の方法でも本人確認を行う仕組みのことです。これにより、仮にパスワードが漏洩してしまっても、不正なログインを防ぐ可能性を大幅に高めることができます。
なぜ「二段階」や「多要素」と言うのでしょうか。本人確認には、主に以下の3つの要素があります。
- 知識情報: 本人だけが「知っている」情報(パスワード、PINコード、秘密の質問への回答など)
- 所有物: 本人だけが「持っている」もの(スマートフォン、ICカード、セキュリティトークンなど)
- 生体情報: 本人の身体的な特徴(指紋、顔、声など)
「二段階認証」は通常、これらの要素のうち2つを組み合わせて認証を行うことを指します。例えば、「パスワード(知識情報)」を入力した後、さらに「スマートフォンに届いたコード(所有物)」を入力するといった形です。
より広範な「多要素認証(MFA: Multi-Factor Authentication)」は、2つ以上の要素を組み合わせる認証方法全般を指し、二段階認証は多要素認証の一つと言えます。多くのサービスで採用されているのは、パスワードとスマートフォンの組み合わせなど、2つの要素によるものが一般的です。
多要素認証の種類と一般的な方法
多要素認証にはいくつかの方法がありますが、リモートワークでよく利用されるデジタルサービスで設定できる代表的な方法をご紹介します。
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スマートフォンアプリによる認証コード: Google AuthenticatorやMicrosoft Authenticatorなどの認証アプリをスマートフォンにインストールし、サービスの連携設定を行います。ログイン時に、パスワード入力後にアプリに表示される一定時間だけ有効な認証コード(通常6桁の数字)を入力します。スマートフォンが「所有物」の要素となります。
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SMSによる認証コード: ログイン時に、登録済みの携帯電話番号にSMS(ショートメッセージサービス)で認証コードが送信されます。パスワード入力後に、このコードを入力します。スマートフォンが「所有物」の要素となります。手軽ですが、SMSが傍受されるリスクも指摘されています。
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メールによる認証コード: ログイン時に、登録済みのメールアドレスに認証コードが送信されます。パスワード入力後に、このコードを入力します。メールアカウントへのアクセスが「知識情報」または「所有物(デバイス)」の要素となり得ますが、パスワード認証と同じ「知識情報」に分類されることもあり、厳密な多要素認証と見なされない場合もあります。予備的な方法として利用されることが多いです。
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生体認証: 指紋認証や顔認証など、本人の身体的な特徴を利用する方法です。対応するデバイス(指紋センサー付きPCやスマートフォンなど)とサービスが必要です。これは「生体情報」の要素にあたります。パスワードと組み合わせて利用されることがあります。
多要素認証を設定するメリット
多要素認証を設定することには、主に以下のようなメリットがあります。
- セキュリティの強化: パスワードが漏洩しても、第二、第三の要素がなければログインできないため、不正アクセスのリスクを大幅に減らせます。
- 安心感の向上: 大切なビジネスツールや情報へのアクセスが保護されているという安心感を持ってリモートワークに取り組めます。
- 会社の情報資産保護: 個人のアカウントだけでなく、会社として利用しているクラウドサービス全体の情報セキュリティレベル向上に貢献します。
具体的な多要素認証の設定方法(一般的な手順)
ここでは、多くのサービスに共通する一般的な多要素認証の設定手順の考え方をご説明します。具体的な画面や表現はサービスによって異なりますので、ご利用のサービスの設定画面やヘルプ情報を合わせてご確認ください。
多くのサービスでは、ログイン後の「設定」または「セキュリティ設定」といった項目の中に、二段階認証や多要素認証に関する設定があります。
ステップ 1: 設定画面へのアクセス 利用しているサービスのウェブサイトにログインし、画面右上のユーザーアイコンやメニューから「設定」「アカウント設定」「セキュリティ」といった項目を探してクリックします。
ステップ 2: 二段階認証/多要素認証の項目を探す セキュリティ関連の設定の中に、「二段階認証」「2要素認証」「多要素認証(MFA)」といった名称の項目があります。これを選択します。
ステップ 3: 設定を開始する 通常、「有効にする」「設定する」といったボタンがありますので、クリックして設定を開始します。
ステップ 4: 認証方法の選択と設定 利用可能な認証方法(認証アプリ、SMSなど)が表示されます。推奨されるのは認証アプリですが、スマートフォンの環境に合わせて選択します。
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認証アプリを選択した場合: 画面にQRコードが表示されます。スマートフォンにインストールした認証アプリを起動し、「アカウントを追加」や「QRコードをスキャン」といった機能を使って画面のQRコードを読み取ります。アプリにそのサービスのアカウントが表示され、一定時間ごとに新しい認証コードが表示されるようになります。サービスの画面に戻り、アプリに表示されている現在の認証コードを入力して「確認」または「完了」します。
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SMS認証を選択した場合: 登録済みの携帯電話番号が表示されるか、入力が求められます。電話番号を確認または入力し、「コードを送信」などのボタンをクリックします。登録した電話番号のSMSに認証コードが届きます。サービスの画面に戻り、SMSで届いたコードを入力して「確認」または「完了」します。
ステップ 5: 予備コード(リカバリーコード)の保管 認証アプリを入れたスマートフォンを紛失したり、電話番号が変わったりした場合に備え、「予備コード」や「リカバリーコード」が発行されることがよくあります。これらのコードは、多要素認証ができなくなった場合にアカウントにログインするための非常に重要なものです。必ず安全な場所に保管してください。紙に印刷して鍵のかかる引き出しに入れる、パスワードマネージャーに保存するなど、他の人に見られない方法で保管することをおすすめします。
ステップ 6: 設定の確認 設定が完了すると、「二段階認証が有効になりました」といったメッセージが表示されます。一度ログアウトし、再度ログインしてみて、パスワード入力後に多要素認証が求められるか確認するとより確実です。
設定時の注意点
- 予備コードは必ず保管する: これがないと、認証方法が使えなくなった際にアカウントにログインできなくなる可能性があります。
- 認証アプリを優先する: SMS認証は手軽ですが、認証アプリの方が一般的にセキュリティレベルが高いとされています。可能であれば認証アプリの利用をおすすめします。
- 複数のサービスで設定する: メール、クラウドストレージ、業務システムなど、重要なアカウントから優先して多要素認証を設定しましょう。
- 設定方法が不明な場合はヘルプを確認する: 各サービスの公式ヘルプページには、多要素認証の設定方法が詳細に記載されています。迷った際は必ず参照してください。
まとめ
リモートワークにおいて、デジタルツールのアカウントセキュリティは避けて通れない課題です。パスワードに加えて二段階認証(多要素認証)を設定することは、不正アクセスから自身と会社の情報を守るための非常に有効な手段です。
初めて設定する際には少々手間がかかるように感じるかもしれませんが、一度設定してしまえば、日々のログインはそれほど負担にならず、安全なリモートワーク環境を維持することができます。ぜひ、今日からお使いの主要なサービスで多要素認証の設定を始めてみてください。小さな一歩が、大きな安心につながります。