リモートワーク対応 稟議・申請の承認フローをデジタルで効率化する基本
リモートワーク下の承認業務の課題
パンデミック以降、多くの企業でリモートワークが導入されました。しかし、紙ベースでの業務プロセスが残っている場合、働き方の変化に対応しきれていないという課題が生じています。特に、稟議書や申請書の承認といった業務は、担当者がオフィスに出社して書類を受け取り、署名・押印をして次の担当者に回す、という従来のやり方では、スムーズに進めることが難しい状況です。
書類の授受に時間がかかったり、誰のところで承認が止まっているのか分からなくなったり、紛失のリスクも高まる可能性があります。このような状況は、業務全体の停滞を招き、従業員の生産性やモチベーションにも影響を及ぼしかねません。
デジタル承認フローとは
デジタル承認フローとは、紙の書類や対面でのやり取りを基本とせず、申請から承認、そして記録・保管までの一連のプロセスをデジタルツール上で行う仕組みです。具体的には、パソコンやスマートフォンを使って申請書を作成し、システム上で指定された承認者にデータを回覧し、オンラインで承認・否認の判断を行う、といった流れになります。
これにより、場所を選ばずに申請や承認が可能となり、リモートワーク環境でもスムーズな業務遂行が期待できます。
承認フローをデジタル化するメリット
承認フローをデジタル化することには、以下のような多くのメリットがあります。
- 承認の迅速化: 物理的な書類の移動がなくなるため、承認作業にかかる時間を大幅に短縮できます。申請者はすぐに次のステップに進むことができます。
- 進捗の可視化: 現在、申請が誰のところで止まっているのか、あとどのくらいで承認が完了するのかなどがツール上で確認できるようになります。これにより、問い合わせの削減やボトルネックの特定が容易になります。
- 保管・検索の容易さ: 承認済みの書類データはデジタル化されて保存されるため、物理的な保管場所が不要になります。また、必要な書類を後から検索する際も、キーワードなどで簡単に見つけ出すことができます。
- コスト削減: 印刷代や郵送費、書類を保管するためのファイルやキャビネットなどのコストを削減できます。
- セキュリティとコンプライアンス: 適切な権限設定やアクセスログの管理を行うことで、書類の紛失や情報漏洩のリスクを減らすことができます。また、承認の履歴がデータとして残るため、コンプライアンスの観点からも有効です。
まずはシンプルに始めるデジタル承認フローの基本
本格的なワークフローシステムを導入するには時間とコストがかかる場合があります。まずは、現在利用しているデジタルツールを活用して、シンプルにデジタル承認フローを試してみることから始めることができます。ここでは、多くの企業で導入が進んでいるチャットツールやドキュメント共有ツールを活用した基本的なアプローチをご紹介します。
1. チャットツールを活用した承認依頼
ビジネスチャットツールは、テキストでのコミュニケーションだけでなく、ファイルの共有や簡単な承認依頼にも活用できます。
- 申請: 申請者は、チャット上で承認が必要な内容(例: 購入申請、休暇申請など)を記載し、必要に応じて申請書類のファイルを添付します。承認者にはメンション機能(特定の相手に通知を送る機能)を使って連絡します。
- 承認/否認: 承認者は、送られてきた申請内容を確認し、チャットの返信機能や絵文字/スタンプ機能を使って「承認」「却下」などの意思表示を行います。必要であれば、チャット内でコメントを追加することも可能です。
- 記録: 承認済みのメッセージはチャットのログとして残ります。後から検索できるよう、特定のチャンネルでまとめて行うなどのルールを決めておくと良いでしょう。
メリット: 普段使い慣れているツールのため導入のハードルが低い点が挙げられます。 注意点: 複雑な承認ルートには不向きです。また、正式な記録としてはチャットログに依存するため、後からの検索や管理が煩雑になる可能性もあります。
2. ドキュメント共有ツールを活用した承認依頼
Google DriveやMicrosoft SharePointなどのドキュメント共有ツールは、ファイルの管理だけでなく、共同編集やコメント機能、承認依頼機能(ツールによる)を持っています。
- 申請: 申請者は、ドキュメント共有ツール上に申請書ファイル(例: スプレッドシート、ドキュメントなど)を作成またはアップロードします。
- 承認依頼とコメント: 承認してほしい箇所にコメント機能を使って依頼事項を書き込んだり、ツールに承認依頼機能があればそれを利用したりします。承認者に対してファイルへのアクセス権限を設定し、通知を送ります。
- 承認/否認: 承認者はファイルを開き、内容を確認します。コメントへの返信や、承認依頼機能を使って承認/否認を行います。必要に応じてファイルを編集(例: 承認印の画像を挿入など)することもあります。
- 記録: 承認済みのファイルはツール上で一元管理されます。ファイルの更新履歴なども残るため、管理が比較的容易です。
メリット: 申請書類そのものと承認の履歴を一緒に管理しやすい点が挙げられます。 注意点: 承認ルートの自動化には限界があります。ツールの機能によっては、複雑な承認ルートに対応できない場合があります。
デジタル承認フロー導入時のポイント
いきなり全ての承認業務をデジタル化しようとすると混乱を招く可能性があります。まずは比較的シンプルで件数の多い申請(例: 交通費精算、備品購入申請など)からデジタル化を試みるのがおすすめです。
- 対象業務の選定: どの承認業務をデジタル化するかを明確にします。
- フローの見直し: デジタル化に合わせて、現在の承認フローに無駄がないか見直します。
- ツールの選定とルール作り: 既存ツールを活用するか、新たなツールを導入するかを決め、具体的な運用ルール(誰が、どのように申請し、誰が、どのように承認するか)を定めます。
- 関係者への周知とトレーニング: デジタル承認フローの目的、使い方、ルールを関係者全員に分かりやすく説明し、必要であれば簡単な操作トレーニングを実施します。
- 段階的な導入と改善: 一度に全てをデジタル化せず、段階的に導入し、運用しながら課題を見つけて改善を続けます。
- セキュリティへの配慮: 誰がどの情報にアクセスできるかといった権限設定を適切に行い、不要になったデータの取り扱いについてもルールを定めます。
まとめ
リモートワークが定着しつつある現在、紙ベースの承認フローは業務の効率化を阻む大きな要因の一つとなり得ます。デジタルツールを活用して承認プロセスを効率化することは、リモートワークにおけるチーム連携を円滑にし、業務全体の生産性向上に繋がります。
まずは、普段お使いのチャットツールやドキュメント共有ツールなど、身近なデジタルツールを活用して、できるところからデジタル承認フローを試してみてはいかがでしょうか。デジタル化は一度に完璧を目指す必要はありません。小さな一歩から始めて、少しずつ業務をアップデートしていくことが大切です。